春の七草のひとつ「ハコベ」。畑や道端、身近に見られる植物です。
和名は「繁縷」といいます。「繁」は繁殖の繁。
言葉通り、畑を覆い繁る様からきているのでしょう。「縷」は辞書を引くと、細々と連なる糸筋。細かく、途切れずに続く様。こまごまとした様という意味だそう。
「一縷(いちる)の望み」という言葉がありますね。一見小さくか弱そうな花が、こまごまと途切れずにあるという意味でしょうか。
ハコベは、雑草として見られがちですが、七草のひとつですし、西洋では「チックウィード」といわれる古くから使われている薬草でもあります。
今回はこの「ハコベ」の持つ力を、植物をじっくりと観察しながら、お伝えしたいと思います。
ハコベの第1印象
まず、第一印象というのはとても重要で、その第一印象の中に植物がもつ本質的な力の多くを感じとることができます。
かわいらしい小さな花、華奢な花、やわらかい、丸みのある葉、全体がみずみずしい。茎は強そう、しなやかなのに強い、赤茶と緑の茎。かよわそうなのに広がる力がある。やわらかそうなのに芯がある。
多くの方が、花のかわいらしい印象や、やわらかさの中に強さがあること、そして茎へ注目がいきます。その植物に近寄りやすいか、近寄りがたいかの印象も大事です。
とげとげしていたり、固い植物は近寄りがたい印象を持ちます。例えば、「エキナセア」というアメリカインディアンが使っていた伝統的なメディカルハーブがあります。
エキナセアの名は、花の中心部がウニのようにトゲトゲしいことから、ギリシャ語でウニを意味するechinosに由来しています。
トゲがあるわけではないのですが、全体的に硬く、その茎を自分の手で折って、花を摘もうとは思えません。近寄るなと怒られそうな印象です。
でも、このハコベは、小さな子供も近寄って、きっとこの可憐な花を自然に手で摘みたくなるのではないでしょうか。柔らかく、簡単に摘めるはずです。
エキナセアに比べると近寄りやすく、優しい雰囲気ですね。エキナセアは、免疫を高めるハーブとして知られていますが、他を引き寄せない、そんな印象が自分の細胞と違うものを引き寄せない「免疫」とつながっていると考えることができそうです。
ハコベは「やわらかい」「丸みがある葉」「みずみずしい」というのがとても重要な質を表しています。
月の植物
偉大な薬草学者であり、占星術者でもあるカルペパー(1616生~1654没)は、ハコベを「とても柔らかく、心地よいハーブで、月が支配する。」といいました。(ニコラスカルペパー著 監修:木村正典 訳:戸坂藤子)
植物の形状や特徴を捉え、基本的な植物の質と天体の質のつながりを見出し、昔の医療は、天体、植物、人をひとつながりで考え、治療していました。
月が支配する植物とはどのような植物を示すのでしょうか。月は冷たくて、湿っている質をあらわします。ヒポクラテスの唱えた体液病理説でいうと「リンパ質」です。
エレメントでいうと「水」と関わります。
そして、太陽が「陽」としたら、月は「陰」。太陽が社会的な顔を表すとしたら、月は無意識の世界を表します。ハコベのどんな部分に月の性質が見られるでしょうか。
ハコベの花
ハコベの花は白く小さく可憐です。バラのような美しく華やかに目立って咲く花とは正反対のようですね。
バラのような美しく華やかな植物は、ヴィーナスを象徴する「金星」とのつながりがあります。月や金星は「水エレメント」とかかわり、どちらも女性を象徴するような惑星ですが、ハコベはひっそりと優しく咲き、金星の質とは違って感じられます。
「月」を連想させるような花の色はどんな色が浮かぶでしょうか?「白」「黄色」「銀色」などでしょうか?
ハコベは夜に咲く花ではありませんが、夜に咲く花の多くは、「黄色」や「白」が多いです。スズメガなど、夜の花粉の運び屋(ポリネーター)に見つけてもらうための色です。
夜に咲く花たちは「月」との関係性が深いのは理解しやすいですね。「白」「黄色」「銀色」の花のすべてが月と関係するわけではないし、ハコベは夜に咲く花ではないのですが、水分を多く含み、そして白くて、ひっそり優しく咲く姿が、「月」を連想させます。
ハコベの葉
ハコベの葉をちぎって下から花へ向かっていくとこんな感じになります。
かわいらしい葉ですね。根に近い方は繁っているからでしょうか、薄い黄緑。上の方は緑ですね。
グラデーションが美しいです。葉の縁のギザギザの鋸歯もありません。丸みを帯びている葉は、水滴が丸くなるように、「水の質」を連想させます。
ハコベの光る青汁
それから、ハコベがどんなふうに活用されてきたか調べてみるとその植物の特性がわかったりします。
和漢三才図絵には、生のハコベを搾った汁と塩をアワビの貝殻に入れて焼き、乾いたらハコベの搾り汁を入れて焼く、これを7度繰り返した塩ハコベを指先につけて歯磨き粉にしたと書かれています。
実はこれ、元祖「歯磨き粉」なのです。なかなか和漢三才図絵のような方法はとても手間がかかるので、行ってはいませんが、簡易な方法で毎年ハコベの歯磨き粉を作るようにしています。まず、ハコベの青汁(搾り汁)を作ってみましょう。
ハコベをたたくと、なんだか懐かしい青い匂いがします。子供のころに草で遊んでいたのを思い出します。たたいたものを搾ってとった青汁はこんな感じ。
他の野草より、水分を多く含んでいるので簡単に青汁が取れます。
そして、その色が、すごく美しいのです。ほかの植物からとれる青汁も緑のものが多いですが、ハコベの青汁は一際潤い光っている緑に感じます。
「水分が多い」という部分にも、月の湿っていて冷たい質がよく感じられます。ハコベを乾燥させて、乾燥した粉末を塩と混ぜた簡単なハコベ塩を作り、歯磨き粉として使っておられる方も多いのですが、私はこの「月の質」を大切にしたくて、ハコベの青汁を使うようにしています。(最後にハコベ塩の作り方を記します)
ハコベの秘密
さて、磨き粉に使うハコベ。実はある部分が、「歯」の形に似ています。どこだと思いますか?
それは花弁。ハコベの花弁は一見10枚のように見えますが、深い切れ込みが入っているだけで、ほんとは5枚です。
白い歯に花弁が見えるから、ハコベは歯磨きに使われると覚えたら覚えやすいですね。
なんだかこじつけのように思われるかもしれませんが、植物の姿・形・色が何かの臓器の形に似ていて、その部分に作用するというのはよくあります。
成分などが分からなかった時代、先人たちはそういった植物の特性をよく観察して、その植物が持つ力を捉えていたのではないでしょうか。
それから、もう一つハコベの秘密があります。第1印象で茎が印象的であると答える方も多いのですが、ハコベの茎には秘密があります。ハコベの茎をよく見ると、毛が生えています。
しかも、茎全体に毛があるわけではなく、茎に一筋の道を作るように毛が生えています。そして、この毛の生え方には、節の上下で90度回転するという法則性があり、茎全体を見ると毛が螺旋形状を生み出しているのです。
なんのためにこの毛はあるのでしょうか?ここにハコベの「偉大な知恵」が隠されています。これ、実は「水」を根元に運ぶ工夫。ハコベについた水分がこの毛を通して根元へと運ばれます。
乾燥する冬でも、少ない水をしっかりと利用することができるしくみをもっているから、ハコベは冬でもみずみずしいのですね。
ハコベは昔から「血の道を司る植物」として、特に女性に対して、産前産後に用いられたり、産後の浄血や、乳汁の分泌を促す薬草として使われてきました。
この茎にできた植物の上部から根元へ水を運ぶ毛の道は、まさに水の流れを司り、月(女性)に有用な薬効とも重なるように感じます。いかがでしたか?
ハコベの本質的な力。小さくとも偉大な知恵の持ち主ですね。
ハコベ塩の作り方
① ハコベをよく洗い細かく刻む。
② 刻んだハコベをすり鉢でする。
③ すったハコベから搾り汁をとる。(ハコベを少量の水と一緒にミキサーで青汁をとってもよい)
④ 塩を鍋にいれ、ハコベ汁を適量かけ、極弱火で水分を飛ばす。
⑤ 焦げ付かないようにかき混ぜ、さらさらになってきたら、さらにハコベの青汁を加え、青汁がなくなるまで行う。